2019年8月26日月曜日

ここがワラビなら、きみはトシ #グノーシア

昔からSFが大好きでして。










といっても男の子なんてものは幼稚園児くらいの時から「ガンダム!宇宙!カッコいい!」みたいな価値観を持ったまま大きくなっていくわけで、大多数の男子はSF的なモノに触れ、SF的なモノに惹かれるもんだと思うんですが。





そんな漠然とSF好き宇宙好きみたいな気持ちを抱きつつもゲームばっかりやってた僕が初めて読んだSF小説は『ニューロマンサー』。




 港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。

という書き出しで始まる、今でこそお馴染みとなった脳をネットワークに接続して広がる世界を電脳空間サイバースペースと表現し、インターネットも無かった時代にサイバーパンクというジャンルを一気に開拓し後続のSF作品に大きな影響を与えた名作中の名作です。

(ちなみに【電脳空間】という造語も本書を訳した黒丸尚氏によって生まれました)






まぁ『ニューロマンサー』を読むキッカケとなったのは『ファントムクラッシュ』というゲームだったんですが。



ファントムクラッシュはXBOXで発売されたメカアクションゲーで、豊富なカスタム要素とゴキゲンなサウンド、エッジの効いたグラフィックにイカしたセリフ回しと褒めるところしかない作品なんですが、初代箱というプラットフォームのせいで知名度がやや乏しい知る人ぞ知る名作…みたいな扱いをされているゲームです。会社も一回潰れたし。

んで、そのファンクラの中で使われてたイカしたセリフ回しっていうのが黒丸尚風の文章表現で、凝り性アーティストだとか、没入ジャックインだとか、出張マッポレンタコップとか千葉チバみたいに外語ルビ表現を多用する文体に魅了されたさとし少年は元ネタとなったニューロマンサーを読み、そこから様々なSF小説を通してさらにSFというジャンルにハマっていくのでした。


SF作品って漫画も小説も映画もたくさんあるんですが、その中でも特にSFを取り扱ったゲームっていうのは他作品のオマージュがめちゃくちゃ多いので、本とか映画を知れば知るほど元ネタがわかってニヤリと出来たり開発者のリスペクトを感じられたりして、ファンならなおさら面白くなるっていう傾向があるんですよね。
洋ゲーのイースターエッグ的な隠し要素もSFネタのことが多い(気がする)。
当然ながら現実世界の延長が物語の舞台となっていることも多いので、科学史の中で実際に起きた出来事…ロケットに乗った犬、AIが初めて歌った歌…とかの有名どころも未だにしばしば使われるし。

といっても今なお鉄板のSF作品であるスタートレックとかスターウォーズみたいな海外のスペースオペラにあんまり触れる機会がないまま大人になってしまったので、まだまだ拾い切れてないネタがあるんだなあという自覚はあるんですが。




で、




グノーシアの話をします。(ネタバレはないです)




僕は子供の頃からずーっとゲームばっかりやってて、そりゃあもう面白いゲームもいっぱいやったんですが、その中でも自信をもって薦められるゲームが何本かあります。

それらはどれも他に類を見ないオンリーワンの輝きを放つ大粒の宝石みたいな作品で、例を挙げると

シミュレーションが好きならXCOM2Into the Breach

アドベンチャーが好きならThe Walking Dead(Telltale Gamesのほうね)、

恐竜が闊歩する大自然のど真ん中で脱糞したいならARK

本格的な脱糞がしたいならSCUM…といった感じでジャンルごとに"間違いない"という作品がいくつかあるんですが、グノーシアに関しては



ゲームが好きならグノーシア、という位置に収まるくらいめちゃくちゃ面白いです。








グノーシアは嘘をつく。人間のふりをして近づき、だまし、
そして身近な人間を一人ずつ、この宇宙から葬り去る――。

漂流する宇宙船内にて、人間を襲う未知の敵「グノーシア」に直面した乗員達は、誰が敵なのか分からない状況でこの危機を収束させるために、一つの解決策を試みる。 最も疑わしい人物から一人ずつコールドスリープさせ、船内に紛れ込んだ全てのグノーシアを活動停止させるのだ。

――公式サイトより


2019年6月20日、既に生産が終了したPSvitaにおいてダウンロード専用ソフトという形で配信された本作は、SF人狼ゲームという非常に特殊なジャンルの作品。

基本的なシステムはみんながボドゲ会とかCGIでやったりしたであろう人狼と同じで、それを一人用に落とし込んだゲームです。
グノーシア問題を解決しても次の瞬間に騒動の初日に戻ってしまうという謎の現象に巻き込まれたプレイヤーは、ループ毎に異なる状況に対応しながら騙し騙されを繰り返し、ループからの脱却を目指す…というお話。







占い師がいたり、霊能者がいたり、狩人がいたり、狂人や狐がいたりといったおなじみのルールもあって人狼を知っている人ならスーッと入っていけるし、チュートリアルやゲーム内ヘルプ、登場人物との会話の中で遊び方や論理的思考方法をしっかりと教えてくれるので人狼あんまり知らないって人でもすぐ慣れると思います。


独創的で美しいビジュアル面、気持ちよさを追求した60FPSの操作性、小気味良いサウンドといったシステム回りの丁寧な作りこみがゲームの面白さに直結。
1ループ10分程度といった手軽さとテンポの良さが辞め時を消失させ、気づけば10ループ、20ループと重ねていきゲーム内でループを繰り返す主人公そのものと化していく…。

昨今の良作と呼ばれるゲームは総じてテンポが良いっていう共通点がありますね。
ロード時間とか操作時に変な間が多いとゲームへの没入感がそがれてしまうんですがグノーシアはそれがない。サクサク動くメッセージウィンドウの動きすら気持ちいい。
この辺の気持ちよさは完全に狙って作られていて、開発のこだわりが感じられるポイントです。







キャラの成長要素もあり、自分の発言に心動かされる人が多くなるカリスマや、発言に論理性を持たせられるロジック、たくさん発言しても目立ちにくくなるステルスといったステータスがあり、それぞれ伸ばしていくことで論争での立ち回りを有利に運べます。
他にも、かわいげというステータスが低いと「おまえさっきからうるさいんじゃい!」と嫌われて投票されやすくなってしまったり、直感が高ければ他人の発言の嘘が見抜けたり、演技力を上げれば嘘がバレにくくなったりといった効果があります。

このステータスはプレイヤー以外の登場人物にも反映されていて、それがまた人間味あふれる魅力的なキャラクターを描くことに成功しています。
絶対的カリスマを持っていてみんな従っちゃう奴、嘘がうまい奴、人の意見に流されやすい奴、襲われて消滅するなら投票されて凍結されるほうがマシだみたいな奴…

人間同士がやる人狼と違って、グノーシアのNPCたちは全員が全員論理的思考をするとは限りません。
普通の人狼だと初日の占COで2人出たらとりあえずその2人は残すじゃないですか。その日にどっちか吊るとかないでしょ。
けどこの宇宙船内では違う。なんかAは嫌いだから、とりあえずB怪しいから、みたいな感情で吊り投票する。
当初、中途半端な人狼経験者だった僕はその状況に面食らって、いやいやそりゃないでしょとかこいつら初日で対抗吊ってどう推理すれば…とかボヤきながら思い通りにならない展開にやきもきしてました。

けどその感情をもたらした理由が『Aのかわいげが低いから』とか、『直感が高くてBの嘘を見抜けたから』みたいにキャラごとのステータスに由来していて、それを元に推理していくゲームなんだと気付いてからは勝てるゲームも増えてきてますますのめりこんでいきました。
感情で動いてるってところが「定石!定石!」とか言ってるシステマチックな人間よりもむしろ人間らしいし、生き残るためにみんなが必死になってる感じがして凄く好きになった。







条件を満たすことで発生するイベントを通じて描かれる登場人物たちの過去や思想は世界観の掘り下げにも貢献していて、ループを重ねれば重ねるほどキャラへの理解も深まり好感度も爆上がり。
初対面の印象で『こいつ嫌な奴だなー』と思ったキャラほど『なんだよ良い奴じゃん…』みたいに逆転していくのが楽しい。










終了条件達成時に勝敗問わず生き残ってるとキャラ×役職に応じたちょっとしたエピローグがあって、それがまた膨大。
最終的に誰が生き残ったか、そこに至るまでに誰と仲良くなったか、とかいろんな条件もあり、何百回ループしても新しい発見があるリプレイ性の高さも◎。
狂人役職でグノーシア側を勝利させた時に見られるエピローグは見るのが難しいこともあって面白い。








SF要素てんこ盛りのストーリーも最高です。
特殊な状況下に置かれた宇宙船内になんか怪しい奴がいる、汎性(無性)の存在、直感で嘘が見抜ける…といった要素が傑作SF漫画『11人いる!』を匂わせつつ、タイムループ要素や並行世界、別次元の存在、クトゥルフ要素もちょいと加えて独自の世界観を表現しています。
基本的にSFって『なんでもアリ』だからいろんなフレーバーを加えれば加えるほど面白くなるものだと思うので、ゲーム自体の面白さもさることながら、SFが好きな人には特に刺さるんじゃないかなと思います。

様々な星系の出身者が自身の生まれ育った環境を話してくれるので宇宙船内という閉じた環境にいながらも広大な宇宙を感じられるし、シュリンプ移動って呼ばれてるFTL航法はジャンプドライブ的なものなのかな、とか、星間航行してる時代に車座になって話し合いかよみたいな疑問に対するSF的こじつけの素晴らしさとか、一作で終わらせるのはもったいない作りこみ。





唯一の欠点は対応プラットフォームがVitaのみということ。
聞けば開発に携わっていたのは4人、2015年くらいにPSモバイル向けに開発してたら同年にサービス終了、しょうがないからVitaで…と思ってたら発売前に生産終了と踏んだり蹴ったりな状況だったようで。

これだけ面白いゲームが埋もれてしまうのはもったいなさすぎると思っていたら他ハードへの移植も前向きに検討してるみたいなんで、とりあえず移植費用を稼がせるために全員Vita版を買ってください。
そのあとで移植されたSwitch版とかスマホ版やればいいです。



公式サイト

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