いきなりですが僕は今盗みを働いています。
お城の方々には大変お世話になったがそれはそれとして両親を埋葬するためにスカーリッツに戻らなくてはならない。
そんなわけで武器庫にある鎧一式を拝借して、兵士に変装して城門から堂々と出ていこうという作戦である。
幸いなことに見張りもおらず鍵も簡素。
雑兵スターターキットとも言うべき甲冑や軍衣を次々とカバンにしまっていくのであった。
見事な着こなし!領主夫人によるファッションチェックも合格だ。
盗んだ装備品を堂々と見せつけているわけだが、奥様はそういうこと気にしないから大丈夫なのだ。
何にせよこれなら遠目から見る分にはただの一般兵。城門から出入りしていても不審がられることはないだろう。
僕の為に祈ってくれる奥様。
大変お世話になりました…。行ってきます!
例の門番さんも金をせびるわけでもなく顔パスで通してくれるように。
普通に良い人だったなこの人。迷惑かけてすいません。
共に逃亡劇を繰り広げたあの馬は厩舎でのほほんとしていたので帰郷に付き合ってもらうことにした。
もともとはクマン人が乗ってた馬を盗んだわけだが今ではすっかり僕に懐いている。
よし、スカーリッツに帰るぞ!!!
ロヴナを越えまもなくスカーリッツ…というところでまたしても嵐が強くなってきた。
雷で怯えちゃうし、賊が潜んでいることを考えるとあまり目立つのもよくない。
というわけで村の手前の森の中で待っていてもらうことにした。
街道には死体が積みあがっていた。
膿んで、腐って、異臭を放つそれらを、僕は直視することができなかった。
死体のそばで屈んでる人が見える。あれは…。
山賊のおっさんが襲い掛かってきた!
おっさんは死体から金目の物を漁っていたところ、やってくる僕に気づいて攻撃をしかけてきた模様。
慌てながらも剣を抜き、振り下ろされた鉈をなんとか受け流す。
死体漁りとはなんという不届き者。許すまじ神への冒涜。
人の物を盗むなんて外道他ならない!
盗んだ鎧一式のおかげで一般中年男性の攻撃程度ならたやすく跳ね返すことができた。
僕の剣の腕前は決して褒められたものではないが、普段着に鉈一本のおっさんに比べると装備の差がかなり大きい。
でたらめに振り回した剣が次第におっさんを圧倒していく。
決定打が入り、おっさんの戦意は完全に消失。
武器を手放し命乞いを始めた。
降伏した相手に対して選べる行動は3つ。
無条件で解放、武器を捨てさせてから解放、降伏は無意味だと言って攻撃。
もちろん対話に入らずそのまま攻撃を続ける第4の選択も可。
僕はそのまま解放することにした。
これ以上、この地を血で汚したくはなかった。
おっさんも魔が差して死体漁りなんぞに手を出したのだろうが、これに懲りたら真っ当な道を歩んでほしいものだ。
ついでに言うと盗んだ鎧と死体から剥ぎ取ったアイテムで荷物がパンパンでこれ以上持てなかったのでそのまま行かせた。
殺しても武器置いてかれてももう拾えんし。
再び道に沿って歩き出す。
馬も人も打ち捨てられている。こんな事が許されるはずがない…。
スカーリッツの村をぐるりと囲む木柵が見えてきた。
門が焼け落ちていたので柵沿いに進んで入れそうなところを探していると、ふたたび死体漁りのおっさんが。
刃物ですらないこん棒で殴りかかってきた。
軽くいなして先に進む。
木柵の切れ目を見つけた。
ここは村の正門があったところだ。
門をくぐると市場、その奥には僕が住んでいた鍛冶屋とお城へと繋がる大通りだ。
意を決して歩を進める。
やっと、村に帰ってこれた…。
スカーリッツは小さいけれど平和でのどかなところだった。
尊敬できる領主様とまじめな人々が静かに暮らしているだけの村だった。
今ではすべてが燃え、灰と瓦礫が積みあがっているだけの場所になっている。
折り重なる死体の中にドイッチさんを見つけた。
彼が支持していたジギスムントへの怒りよりも、最期まで戦ったであろうその姿への尊敬の念が先に出てきたのは自分が許せないからだろう。
(この辺、顔見知りを見つけるたびにヘンリーくんが自虐コメを出すので本当に辛い)
あぁ、なんてことだ…。
彼女の指にはめられていたのは僕が贈った安っぽい指輪。
そっと外し、握りしめた。
父さんと母さんを埋葬したら、すぐに戻ってくるからね…。
そして…。
続く。
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