悲願の帰郷を果たした末に両親を見つけることができた。
まだ身体が残っていたことに安堵するのと同時に、あの日の出来事が全て真実だったということを改めて認識させられた。
雨はますます強くなっていた。
無事に父さんも母さんも見つけられたし、埋葬する場所も決まっている。
というわけで穴を掘るための道具を探しに行くことにした。
商店かその辺に置いてないだろうか…と思っていると、どうも建物の裏手から物音が聞こえる。
誰かいるのだろうか?
声がするのはこの路地だ。
人影と…犬の鳴き声?
あれは…
振り下ろされようとした長物をバシッと掴んでやめさせる。
誰かと思えば、ズビシェク?無事だったのか!
こんなところでシャベル振り回して何を?
1話に出てきた彼です。
ははぁ、読めてきたぞ。
いくら無能な怠け者で村の嫌われ者だったドクズのズビシェクくんでも死体漁りなんかしないよね?
…。
まぁズビシェクがどう生きようが今はさして興味も無いしこれ以上触れないでおこう。
シャベルが借りたいんだよ。
なんかやり取りするのも面倒くさくなってきたのでぶん殴ることにした。
こいつは自分が住んでいた村で、お世話になった人々の死体を漁ってるようなケダモノだ。
人の物を盗むような外道とまともな交渉ができるはずがない。
盗んだ鎧一式のおかげで一般ズビシェク男性の攻撃程度ならたやすく跳ね返すことができた。
僕の格闘術は決して褒められたものではないが、普段着にステゴロのズビシェクに比べると装備の差がかなり大きい。
でたらめに振り回した拳が次第にズビシェクを圧倒していく。
思いの外ズビシェクがタフでなかなか決着がつかなかったので、思わず剣を抜いたら一目散に逃げていった。
二度と逆らうなよ。
逃げる背中に罵倒を浴びせるとスピーチレベルがあがった。
そんなわけでシャベルゲット。使い終わってもズビシェクに返す必要はないだろう。
そもそも肉屋の備品だったんじゃないか?
ワンちゃんは肉屋のおじさんのそばに座り込んで悲しそうに鳴き続けていた。
さすがの僕でもこの状況でおじさんの懐に手を入れることは躊躇われる。
一声かけて、シャベルだけ借りていくことにした。
雨でぬかるんだ坂道をあがって住み慣れた我が家へ。
焼け落ち、ボロボロになった姿に思わず涙が溢れそうになったがぐっとこらえた。
父さんが言っていた裏庭の菩提樹。
嵐のおかげか火が燃え移ることは無かったようだ。
よし、穴を掘ろう。
二人が寄り添って眠れるよう広めの穴をひとつ掘った。
遺体を担いで坂道を往復するのはなかなか骨が折れそうだが泣き言は言ってられない。
さぁ、もうひと頑張りだ。
肉屋のワンちゃんと一緒に坂道を下る。
まずは母さんから運ぼう。
いや、骨が折れるというか…動かない!ビクともしない!
もともと大して力自慢でもない僕が硬直した大人を担ぎ上げるのは無理だ。
これは…困った。どうしたらいいんだ。ここまできて…。
「手伝おうか?」
不意に、後ろから声が飛んできた。
続く。
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